2008年 06月 02日
蘇る玉虫厨子(たまむしのずし)
奈良の法隆寺に残る多くの秘宝のなかでも、国宝の玉虫厨子(たまむしのずし)は、飛鳥時代最高の工芸作品として名高い。ただ、名前の由来となった大量のタマムシの羽は、本体上部の透かし彫りの金具の下から、ほとんどが失われている。 ▼ 1300年前のまばゆい輝きを取り戻すことができたら、とは誰しも思うことだ。以前に小欄で紹介したことがある、岐阜県高山市の実業家、中田金太さんは、1億円以上の私財を投じ、それを実行に移した。 ▼ 宮大工、彫師、蒔絵師(まきえし)、塗師、錺(かざり)金具師ら、全国から集められたえりすぐりの職人たちが、3年の歳月をかけて完成させた2点は、今、法隆寺の秘宝展で展示されている。1点は、国宝を忠実に再現した復刻版。 ▼ もう1点は、4つの面に描かれた仏画などにも、計約3万6000枚のタマムシの羽を張り付けた「平成版」だ。平成版は、洞爺湖サミットの会場に持ち込まれ、各国の指導者に披露する計画もあるという。空前のプロジェクトを追ったドキュメンタリー映画『蘇る玉虫厨子』もまもなく公開される。 ▼ 高山市出身のプロデューサー、益田祐美子さんが、「ものづくりの過程も残さなければ」と、資金を自分で集めて製作した。映画のなかで「新しい技法を編み出した」と、笑みを浮かべる職人の姿があった。復刻作業で、技術の高さが認められて仕事が増え、経済的な苦境から逃れた職人もいたという。 ▼ 「地域の振興、ものづくりの復権をいうのなら、まず第2、第3の中田金太が出てこなければ」と益田さんはいう。ただ残念なのは、その中田さんが、完成前の昨年6月に世を去ったことだ。「ひとめ見せたかった」。映画で三國連太郎さんが語る言葉は、関係者すべての気持ちでもある。 20/06/02 05:08 【産経抄】6月2日
by unkotamezou
| 2008-06-02 05:08
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