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【軍事報告】イラク自衛隊の真実
【軍事報告】イラク自衛隊の真実

2007-01-27 13:33

 昨年は陸上自衛隊にとり、大転換の年であった。“本土決戦用”だった陸自がイラクという異国の地で、延べ5500人もの隊員を展開、自らの身を守りながら、人道復興支援を成し遂げ、しかも無事、帰国を果たしたからだ。

 だが、無事を喜ばない人たちもいる。テレビのニュースキャスターやコメンテーター、新聞の社説執筆者らの一部がその人たちで、自衛官が“戦死”しようものなら、イラク派遣が間違いだったと声高に主張しようと2年半もの間、手ぐすねひいて待っていたのだった。「それ、見たことか」式の、見識がない後付けの論法である。自衛官の命を尊ぶかのようなヒューマニズムを隠れみのにしている分、悪質でもある。

■「アイスが溶けた」

 メディアを筆頭に、日本人は「命の尊さ」を口にし自己陶酔する癖(へき)があるが、自衛官の命には鈍感だ。航空自衛官2人が訓練中に殉職した1999(平成11)年11月の事故もそうだった。

 2人は操縦不能に陥った機体が市街地へ墜落する最悪の事態を避けるべく、機体を河川敷まで何とか操った捨て身の努力が災いし、脱出が遅れ亡くなった。トラブル発生時は市街地上空を避ける、という教育・訓練の帰結だった。事故では練習機が高圧電線に接触したために大規模停電が起きた。それは一方の事実だった。自治体は「遺憾の意」を表明。メディアは訓練の危険性などを批判し、「スーパーマーケットのアイスクリームが溶けた」とまで報じた。

 厳しい訓練や過酷な出動を重ねることから、軍隊では平時でも殉職者が多い。この半世紀、1800人近い自衛隊員が公務中に命を落としている。

 昨夏には任務完了によるイラク派遣部隊の隊旗返還式が小泉純一郎首相出席の下、行われた。この式典に国民が違和感を覚えないところに、「スーパーのアイスが溶けた」と同根の、この国の深刻な病理を見てしまう。式典では誰一人、勲章を与えられていない。生きている自衛官への勲章授与制度はないからだ。自衛隊員は入隊時に「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる」という「服務の宣誓」を、法により義務付けられている。このことを、どのくらいの国民が知っているだろうか。千数十回もの不発弾処理の度に、真新しい下着を着けて出動している中年自衛官の覚悟を、どのくらいの政治家が知っているだろうか。

■ 地味な任務を黙々と

 自衛官の「崇高な使命感」に比べ、国家・国民の側はあまりに乾いている。「平和国家」は自衛官の「命」によっても支えられていることを、国民に知らせたい-。そんな気持ちから昨秋、「誰も書かなかったイラク自衛隊の真実-人道復興支援2年半の軌跡」(扶桑社より発売中)を上梓(じようし)した。

 イラク派遣自衛官を追い、日本列島を縦断した。取材に7カ月を要したのは対象者が数百人にのぼったからだけではない。危険で、過酷で、地味な任務を黙々と遂行した自衛官が“自慢話”をしたがらなかったからだ。粘った。すると、飾ることのない素朴な語り口の中に、悲喜こもごものニュースが潜んでいたではないか。彼らに「崇高な使命感」「自己犠牲」などという自覚・意識はなかった。「任務とその延長上にある日々の出来事」として記憶しているに過ぎなかった。

 それを「腰抜け」呼ばわりしたのも「それ、見たことか」派の人々だった。「それ、見たことか」と一見、自衛官の死を悼んでみせようと構えていた人々に限って、迫撃砲弾などによる攻撃後に、宿営地外での活動を一時的に一部自粛した自衛隊を「引きこもり」と揶揄(やゆ)したのは、どうしたことだろう。

 むしろ、「一部自粛」に、軍事的合理性をわがものとしている自衛隊の成長を垣間見る。「自衛官の生命を犠牲にしても、敢行する作戦か否か」という判断基準がまったくブレず、ときにかすめる“蛮勇(ばんゆう)”を自戒し続けた歴代指揮官の冷静な判断は評価できる。

■ 勲章なき名誉

 一方、階級の上下を問わず、自衛官が危機感を共有したことも犠牲者ゼロに貢献した。「犠牲者が出たら時代は逆行、国際平和のための海外派遣ができなくなる」という危機感である。それが「それ、見たことか」派の人々の究極の狙いなのだが、任務以外にこんな“余計なこと”まで考え、行動せざるを得ない“軍隊”がほかにあるだろうか。

 外国における自衛隊の作戦計画、規律、練度が主な多国籍軍と同レベルか、それ以上だったことを国連や各国の軍事関係者が目の当たりにした。今後、国際平和への協力要請は増え続ける。自衛隊はわが国への危機対処能力を最優先に向上させながら、国際社会の期待にも応えるべく、海外派遣型装備の整備など課題を克服せねばならない。

 同時に、任務も外国並みになるに従い、犠牲への覚悟も必要となろう。その大前提となるのが「現職自衛官への勲章制度」制定であり、「公」「国益」に殉じた自衛官を遇する「勲章・恩給制度」確立である。

「自衛官が求めているのは名誉だけなのですが…」

 自衛官が日頃、遠慮がちに口にするこの言葉を聞くことが、イラク派遣終了後は特に辛くなった。不安に耐え、留守を預かった妻の涙-。寂しさを我慢、跳びついた父親の首に手をギュッと巻きつけたまま離そうとしない子供のまなざし-。そうしたシーンを思い起こすと、この言葉は何とも切なく響くのだ。(野口裕之)
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by unkotamezou | 2007-01-27 13:33 | 國防 軍事