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失われた道徳教育の再生・復活を求む
失われた道徳教育の再生・復活を求む

明治大学名誉教授・入江隆則

■ 自信養う勇気と堪忍、公益と博愛の心

≪米による精神的武装解除≫

 安倍新内閣が教育再生を重点政策に掲げているため、各方面で教育論議が盛んである。それは結構なことだが、戦後の教育が今のように見るも無残な姿になった元凶が何であったかについての明確な意識がないと、どんなアイデアも画餅に帰してしまうだろう。

 教育再生の1つの重要な項目に、規範意識つまり道徳の再生の問題がある。これは戦後日本に進駐したアメリカの占領軍が、昭和20年12月31日に「修身、日本歴史及び地理停止に関する件」という指令を出して、道徳の授業を停止させ、修身の教科書を回収したことに端を発している。大東亜戦争での日本軍の強靱(きょうじん)さに驚嘆したアメリカは、日本人の精神を弱体化させるために、その倫理意識を破壊しようとしたのである。当時、それは日本人の「精神的武装解除」と呼ばれていた。それが自虐的で自信のない今日の日本人が生まれるに至ったそもそもの発端である。

 もちろんさまざまな他の要素がこれに加わった。歴史上未曾有の敗戦によって、日本人が呆然(ぼうぜん)自失して、頭のなかに倫理的空白が生じたのも大きかった。この倫理的空白は戦中世代、その子供に当たる団塊の世代、さらにその子供に当たる現代の若者と、3世代にわたって拡大再生産されて今日に至っている。その空白を狙って、戦後の早い時期に占領軍の一大プロパガンダが注入されたのも忘れてはならない。神道指令や東京裁判の演出やマッカーサー憲法の押し付けや皇室典範の改定などは、すべてその一環だったと考えるべきである。

≪義を重んじ誠をもち実践≫

 この占領軍のプロパガンダに日本の左翼が呼応して、いわばマッカーサーとマルクスが合体した形で、国家を呪(のろ)うことが流行(はや)り、革命を目指した戦後教育という名の、日本解体計画が着々と進んできたのである。それが今日の日本社会の道義の退廃、家庭の崩壊、学級崩壊、子供の暴力行為の横行、目を覆うばかりの凶悪犯罪の蔓延(まんえん)といった現象となって現れている。したがって、今日規範意識を再生させるためには、戦後の風潮をつくってきたこの根本にメスを入れなければならない。

 最近産経新聞に連載された「日本の教育と私」というエッセーの中で、李登輝元台湾総統は、戦前の日本の教育を称賛している。当時の日本には武士道精神が生きていて「公の心、秩序、名誉、勇気、いさぎよさ、惻隠の情、躬行実践」の精神が尊ばれていたとして、その武士道精神を体現した人物として、台湾の烏山頭ダムを建設した日本人・八田與一の名前を挙げている。彼の行為には「義を重んじ、誠をもって率先垂範、実践」する精神が漲(みなぎ)っていて、そのため今でも台湾人の尊敬を集めているというのである。また李登輝氏自身も「日本の大正世代に生まれ、徹底的に日本教育の薫陶を受け、忍耐、自制、秩序を重んじ、公の為に奮闘、努力する精神を身につけた」と言われている。

 こう書くと、やみくもに戦前の軍国主義を称揚するのかという人がいるかもしれないが、必ずしもそうではない。アメリカの占領政策の影響を引きずって、戦前の日本はすべてが悪かったかのように言う人がいるが、それがとんでもない誤解であることが、こういう証言によって明らかになると、私は言いたいのである。

≪消えた偉人たちを再発見≫

 その一つの証拠には、昭和23年の衆議院で「排除」された戦前の「教育勅語」を今読み返してみても、特に不都合だと考えられる項目は存在しない。「父母に孝に、兄弟に友に、夫婦相和し、朋友相信じ、恭倹己を持し、博愛衆に及ぼし、学を修め、業を習い、以て智能を啓発し、徳器を成就し、進んで公益を広め、世務を開き、常に国憲を重んじ、国法に遵い、一旦緩急あれば、義勇公に奉じ」というのがその具体的内容であるが、いつの時代にも必要なものばかりである。

 また戦後の教育から「偉人」が消えてしまったのも、考え直すべきである。昔の修身の教科書には、勇気、堪忍、公益、衛生、度量、博愛、自信、清廉など多くの徳目とともに、勝海舟、野口英世、渋沢栄一、渡辺崋山、山田長政、本居宣長、コロンブス、フランクリン、ジェンナー、ナイチンゲールといった内外の「偉人」の逸話が収録されていた。子供のころの私は興味深く読んだ記憶がある。徳目やそれに相応(ふさわ)しい「偉人」の選択は今日の目でやりなおせばよいが、こういう教科書の復活も考えるべきことであろう。

(いりえ たかのり)
by unkotamezou | 2006-10-27 07:00 | 教育 學問 書籍