2006年 10月 20日
皇后陛下 お誕生日
皇后陛下のお誕生日(平成18年10月20日)に際して宮内記者会の質問に対する文書ご回答とこの1年のご動静
【宮内記者会の質問に対する文書ご回答】 問一 秋篠宮ご夫妻に四十一年ぶりの親王となる悠仁さまが誕生されました。紀子さまにとりましては「部分前置胎盤」を乗り越え帝王切開による出産となりました。皇后さまは母として、祖母としてどのようなお気持ちでご一家を見守られたのか、具体的なエピソードも交えお聞かせください。悠仁さまのご成長への願いや皇位継承者としての教育のあり方についても合わせてお聞かせください。 皇后陛下 懐妊の報せを喜ぶとともに、十一年振りに身重となる秋篠宮妃の上を思い、無事の経過を願わずにはいられませんでした。出産までの過程には、部分前置胎盤という予想外の事態もありましたが、関係者の手厚い保護のもと、危険を避けることができたことは幸せなことでした。 私が初めて子どもを授かった四十数年前、前置胎盤は非常に恐れられていた状態でした。特に当時まだ二十代半ばであった私は、お産は太古も今もそう変わるはずはないという思いから、その頃より更に一時代前、母が読んだという、安井修平先生の書かれたお産関係の本一冊を唯一の参考書にしておりましたので、その本で読んだ前置胎盤の怖い記述が思いだされ、大層心配いたしました。 現在も危険の可能性こそ変わりませんが、その後の医学の進歩により、安全なお産に導いていただけることを知らされ、安堵いたしました。私が秋篠宮妃を「気丈」と評したのは本当?と、最近よく尋ねられるのですが、もし私がそう思い、周囲の人にも洩らしたとすれば、それは懐妊の報せを受けた時ではなく、この前置胎盤と、それに伴う帝王切開のことを、宮妃が穏やかに、むしろのんびりとした口調で電話で伝えてきた時のことであったと思います。 「悠仁の成長への願いは」という質問ですが、悠仁はまだ本当に小さいのですから、今はただ、両親や姉たち、周囲の人々の保護と愛情を受け、健やかに日々を送ってほしいと願うばかりです。「教育のあり方」についての質問ですが、敬宮の生まれた時にもお答えしたと同様、まず両親の意向を聞き、それを私も大切にしつつ、見守っていきたいと考えています。 なお、教育ということに関し、時々引用される「ナルちゃん憲法」ですが、これは私が外国や国内を旅行する前などに、長い留守を預かる当時の若い看護婦さんたちに頼まれ、毎回大急ぎで書き残したメモのたまったものに過ぎず、「帝王学」などという言葉と並べられるようなものでは決してありません。 小児科医であった佐藤久東宮侍医長が記した「浩宮さま」という本により、このメモのことが知れたと思われますが、本来は家庭の中にとどまっているべきものでした。たしか佐藤医師もこの本のどこかで、このようなメモは別とし、私が浩宮の教育に関し最も大切に考えていたのは、昭和天皇と今上陛下のお姿に学ぶことであったと述べていたのではないかと思います。 註 ご回答の中の「長い留守」 当時の東宮両殿下のご旅行は、一回ごとが非常に長く、浩宮さまご出産の年に行われた海外旅行は、一回目が二週間、二回目が約一か月、その翌々年の九州三県のご旅行は十三日間となっている。(侍従職) 問二 皇太子ご一家が雅子さまの療養を兼ねオランダを訪問されました。今回の静養をどのように受け止められましたでしょうか。公務への復帰を目指す雅子さまを見守るお気持ちとともに、愛子さまのご成長ぶりをどのように感じておられるかもお聞かせください。 皇后陛下 この度のオランダ訪問は、東宮東宮妃共にこれをよしと考え、さらに治療に当たる専門医の薦めがあって実現いたしました。東宮職、本庁の幹部も、皆この計画を真剣にとり進める意向で一致いたしましたので、陛下と私もこれを支持し、一家、わけても東宮妃が、この滞在を元気に過ごすことを念じ旅立ちを送りました。 帰国後、東宮と妃より、感謝の言葉と共に、滞在が素晴らしいものであったことを聞き、また、多くの方が、この旅行後、東宮妃の健康状態に改善が見られるように思う、と語られるのを耳にし、安堵し、嬉しく思いました。ベアトリックス女王陛下が、ご家族と共に東宮の三人をあのように温かく迎えてくださったことを、深く感謝しております。 東宮妃の公務復帰については、専門医の診断を仰ぎながら、妃自身が一番安心できる時を待って行われることが大切だと思います。あせることなく、しかし、その日が必ず来ることに希望をもって、東宮妃も、また東宮も、それまでの日々、自分を大切にして過ごしてほしいと祈っています。 敬宮は、背もすくすくと伸び、おさげ髪のよく似合う女の子になりました。今年はもう着袴の儀を迎えます。男の子の着袴姿もそうですが、女児の裳着の姿も本当に愛らしく、清子、眞子、佳子のそれぞれの裳着の姿や所作は、今も目に残っています。 今年四月、幼稚園の服装で訪ねて来た日には、肩かけカバンや手さげの中から、一つ一つハンカチや出席ノートなど出して見せてくれました。この次に会う時には、きっと運動会や遠足の話をしてくれるでしょう。楽しみにしています。 問三 天皇陛下は昨年の記者会見で女性皇族の役割の重要性に触れられ、皇后さまをはじめ各妃殿下方もそれぞれの役割を担ってこられました。現在のところ二十代以下の若い皇族は悠仁さまを除きみな女性皇族になりますが、そうした次々代を担う女性皇族にどのような役割や位置付けを期待されますでしょうか。お聞かせください。 皇后陛下 皇室典範をめぐり、様々に論議が行われている時であり、この問に答えることは、むずかしいことです。特に「次々代を担う女性皇族の位置付けをどのように期待するか」ということは、皇位継承の問題に直接関係することであり、私が今このことにつき、何らかの期待を述べる立場にあるとは考えておりません。「役割」についても、個人一人一人が置かれる「位置」と分かち難くあるものですので、このことについてもこの度これに触れることは控えます。 【この一年のご動静】 皇后さまは、昨年のお誕生日の翌日、十月二十一日から岡山県への行幸啓に四日間お出ましになったことに始まり、この一年間、皇居内外で、また、国の内外で様々なお務めを果たされました。皇后さまが公的なお立場でお務めになったお仕事は三百四十一件に上り、その他にも、宮中祭祀十五回、献穀者及び賢所奉仕者の拝謁や皇居勤労奉仕団へのご会釈が五十八回ありました。 皇后さまはこれらのお務めの多くを陛下のお側でなさいましたが、皇后さまご単独でのお務めもありました。日本赤十字社名誉総裁としては、全国赤十字大会にご臨席になりお言葉を述べられ、また、八月に日本赤十字社をご訪問になり、殉職救護員慰霊祭にご臨席になり慰霊碑にご供花になったほか、ジャワ島中部地震災害における日本赤十字社の活動状況をご聴取になるとともに国際救援派遣救護員を励まされました。 年間を通じて、チャリティー・コンサートを始め各種の公演、展覧会などにお出ましになり、社会貢献活動や文化、芸術に携わっている人々を励まされました。一昨年、皇后さまの古希をお祝いしてチェロ奏者のロストロポーヴィチ氏が東京で開催したコンサートの収益金が思召しにより日本オーケストラ連盟に贈られましたが、二月、その資金をもとに行われたワークショップとコンサート「子どもたちのためのオーケストラ入門」にご臨席になりました。 七月には、長野で開催された「スペシャルオリンピックス第八回冬季世界大会」について、主催団体の理事長からご報告をお受けになるとともに、その活動を支援するチャリティーコンサートにお出ましになりました。 御所では恒例の肢体不自由児関係の「ねむの木賞」受賞者のご接見や日本赤十字社社長及び副社長からの活動状況のご報告があったほか、高齢化の進むハンセン病患者について、駿河療養所の所長及び東北新生園の園長から、それぞれ、療養所の現状と今後についてお聴き取りになりました。 皇后さまは、かねて、ハンセン病患者に心を寄せられ、昭和四十三年以来、地方行幸啓の際などに全国各地のハンセン病国立療養所をご訪問になってきました。昨年十月にご訪問になった岡山県の長島愛生園と邑久光明園を含め、これまでに十か所の療養所をご訪問になっており、ご訪問がかなわなかった三か所の療養所についても、本年でその全てについて園長にお会いになり、状況のご聴取をなさったことになります。 自然災害の被災者には常々お心を寄せていらっしゃいますが、両陛下は、四年半にわたる全島避難を経て帰島した三宅島の島民についても引き続き心にお掛けになり、三月、帰島後一年を迎えた三宅島をヘリコプターにより日帰りでご訪問になりました。復興状況をご聴取になり、村役場の臨時庁舎、漁港などをご視察になるとともに、帰島した多くの島民や復興尽力者とご懇談になり、励まされました。また、四月には、阪神・淡路震災復興支援十年委員会の解散に当たり、実行委員長からお話を聞かれました。 この一年間の公的な地方行幸啓は五道県(岡山、神奈川、岐阜、北海道、兵庫)にわたりました。国民体育大会、全国豊かな海づくり大会、全国植樹祭、国際顕微鏡学会議の開会式等にご臨席になったほか、地方の文化、福祉を始めとする諸施設をご訪問になるとともに、多くの市町村を回られ、大勢の人々の歓迎にお応えになりました。北海道では、長年にわたり関心を持ち続けてこられたえりも緑化事業をご視察になりましたが、札幌から襟裳岬を経て帯広まで、お車による五日間の道内走行距離は約五百三十キロに達しました。 八月には、中一日という短いご日程でしたが、群馬県で行われた草津国際音楽アカデミー&フェスティバルにご出席になり、この間五時間にわたるワークショップで、国内外の音楽家と四重奏、五重奏など室内楽の練習に励まれました。また、「高松宮殿下記念世界文化賞若手芸術家奨励制度」により招かれた「ソウル・シンフォニエッタ」によるコンサートや学生代表の演奏をご鑑賞になるなど、内外から集った音楽家及び関係者と和やかな夏休みの一時をお過ごしになりました。 六月八日から十五日まで、両陛下は、シンガポール国及びタイ国を公式にご訪問になり、その間にはマレーシア国にお立ち寄りになりました。国賓としてご訪問になったシンガポールでは公式行事のほか市民とのご交流に努められ、タイでは国王陛下御即位六十年慶祝儀式を始め多くの行事に臨まれるとともに、各国王族とのご親交を深められました。 タイ国最大の新聞は、世論調査の結果として、「祝賀行事に出席した王族皇族のうち、最も感銘を受け、最も洗練されていたのは日本の両陛下であった」と報じましたが、お心を込めてお務めをなさる両陛下のお姿が、タイ国民にも強く印象づけられたものと思われます。マレーシアでは、十五年前にご訪問の直前になって中止を余儀なくされたペラ州へのご訪問を果たされ、現地の人々から大きな歓迎を受けられました。 今年のご養蚕は、四月下旬のわら蔟づくりから始まり、五月一日にはお掃き立て、天蚕の山つけ(卵を付した紙を枝につける作業)をされました。皇后さまは定例のご給桑(二回)、上蔟、初繭掻きの行事の他にも、桑の葉摘み、給桑、わら蔟づくり、除沙、小石丸のこもぬき及び種繭の両端切り、収繭作業、毛羽取り作業、天蚕の繭取りなど、幾度か桑園、御養蚕所、さらに、今春に吹上西通りに更新された野蚕室においでになり、蚕の飼育に当たられました。 今年は、次期式年遷宮に際し、新しく作製するご神宝の絹織物のためにも小石丸の糸を使わせていただければとの伊勢神宮大宮司からの願い出を受けられて、収穫量の総繭百八十キロ中百二十九キロを小石丸とされ、そのうち八十キロを神宮に下賜されました。これまで皇后さまが十一年に渡り宝物復元にお力を貸してこられた正倉院からも、更にその制作を継続するための小石丸ご下賜の願い出があり、今年もそれにお応えになり、三十キロをお渡しになりました。 宮中祭祀は、恒例の十三回の祭祀すべてに列せられ、その他に、外国ご訪問につき宮中三殿に謁するの儀と桓武天皇千二百年式年祭に列せられました。また、大正天皇崩御八十年に当たり、三月に多摩陵、多摩東陵にご参拝になりました。 昨年十一月十五日には、紀宮殿下が黒田慶樹氏とご結婚になりました。皇后さまは、三十六年間にわたって両陛下のお傍で内親王としての務めを果たしてこられた紀宮殿下の新しいご生活が幸せなものであるよう、ご結婚に先だって、お心を尽くしてその準備をされ、当日は、ご結婚式とご披露宴にご出席になって心からのお祝いをなさり、ご結婚後もあたたかく見守っていらっしゃいます。 二月には、秋篠宮妃殿下のご懐妊が発表され、それ以来、無事なご出産を願われて様々にお気遣いをなさっていらっしゃいましたが、九月六日に悠仁親王殿下がご誕生になりました。四人目となられる皇孫が無事にご誕生になり、母子ともにお元気であることをお喜びでいらっしゃいます。 皇后さまは、週日のほぼ連日のご公務に加え、土日や祝日にも多くの公的な行事や祭祀をお務めになっておられます。二月にはやや強いめまいをお感じになったことから葉山御用邸への行幸啓をお取り止めになったほか、六月の外国ご訪問直前に、お風邪と口唇ヘルペスのため、記者会見を延期なさいましたが、この一年、予定されていたご公務は、その全てをお務めになりました。 ご健康には日ごろからお気を付けになっており、特に、陛下のご健康をお案じになり、早朝の散策やご公務のない週末のテニス等を努めて陛下と共になさるように心掛けておられます。ご自由になるわずかのお時間をお使いになってピアノの練習を続けておられ、内外の音楽家のお誘いには、感謝なさりつつアンサンブルに加わっていらっしゃいます。 十月二十日、皇后さまは七十二回目のお誕生日をお迎えになります。
by unkotamezou
| 2006-10-20 00:00
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