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長島茂雄 二十二 「見せる野球」こそ本当のプロ
「見せる野球」こそ本当のプロ

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9連覇を成し遂げ、優勝旗を手に後楽園球場内を一周する巨人監督・川上哲治(中央)と長嶋たち(1973年11月1日)

 V9時代は、巨人が余りにも強すぎましたから、大量リードしていても駄目押しの送りバントを使うなど手堅い川上(哲治)さんの監督采配(さいはい)に対し、ファンや記者の間から「つまらない野球」という批判が出ましたよね。

 しかし、そうでしょうか。当時の巨人は、ONという打線の中心となる選手がいて、強力な投手力があったので、川上さんが「いかに勝つか」という確率の高い野球を選択した結果でしょう。勝つことによって、ファンの皆さんに十分喜んでいただけたのではないでしょうか。

 《常勝巨人の登場に合わせて、野球漫画「巨人の星」(作・梶原一騎、画・川崎のぼる)が、1966年(昭和41年)から71年にかけて「週刊少年マガジン」に連載される。星飛雄馬が父親の猛特訓を受けて巨人に入団、大リーグボールを武器に活躍するストーリーは、のちにアニメ化される。これに先立つ61~62年、架空の巨人軍投手・二宮光を主人公にしたちばてつやの「ちかいの魔球」が同誌に連載された。71~74年、「週刊少年ジャンプ」に連載された「侍ジャイアンツ」(作・梶原一騎、画・井上コオ)も、子どもたちの人気を集めた》

 しかも、ただ勝つというのではなかったですよ。これは暗黙の了解というか、ナインのみんなの中に「巨人の野球をやる」という強い意志がありました。ただ強ければいいというのではありませんでした。

 だって、ファンが野球中継を見ようとテレビをつけて、そこで大量リードしてるんじゃ、もう見ないでしょ。安心してチャンネルを変えちゃいますよ。

 夕方6時からのゲームで7時に野球中継が始まって、負けていても、ファンは「いつか逆転してくれる」と見ます。巨人嫌いの人たちも、「きょうは巨人が負けるだろう」と、見るでしょう。三回、四回、五回と試合は進んでいって、ファンはハラハラ、ドキドキする。そして、最後に巨人が期待に応える。そういう野球ですよ、ファンが見たいのはね。

 勝つにも勝ち方があります。強くなけりゃいけないけれど、同時に見せなくちゃいかん。それがほんとのプロ野球というものだと思うんですよ。もちろん、意識してそんなことはできっこないですけど、結果的にそんな野球をお見せできた。お見せしたかった。それが6連覇ぐらいまでの、強かった巨人の野球でした。

 V9最後の年、1973年(昭和48年)は苦しいシーズンでした。私は10月に入って、後楽園での阪神戦で右手の薬指を骨折して、戦線を離脱しました。

 《巨人は、首位阪神との最終戦を残して、ゲーム差1だった。甲子園へ移動する巨人ナインを乗せた新幹線が、中日球場脇を通りかかった時、勝負をかけた阪神は、エース江夏豊を押し立てて中日に敗れ、ゲーム差は0・5。1日置いて、運命の10月22日の甲子園決戦で、長嶋を欠いた巨人打線は、初回から阪神の上田二朗投手に襲いかかり、9―0で完勝して優勝。日本シリーズでも南海を破り、9連覇を果たす。王貞治は、史上3人目の三冠王に輝いた》

 巨人の不敗神話は、この年で終わります。私もV9を支えたナインたちも、限界を感じはじめていました。(敬称略)

(2006年7月8日 読売新聞)
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by unkotamezou | 2006-07-08 22:31 | 冒險 競技 藝能 娯楽