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和の匠 京都迎賓館 有職織
【和の匠 京都迎賓館】有職織 みやびやか、調和の美

 「有職ゆうそく織物は『色の美』。昔のご婦人は何枚も衣装を襲着かさねぎしましたからね。その調和の美しさが、なんといっても私の感性の見せ所です」

 親子二代の人間国宝、喜多川ひょう二さん(六十九)は、五百年続く京都・西陣「たわら屋」の十八代目。京都迎賓館に飾る装束や、舞台幕などを制作した。

 なかでも人目を引くのが、オレンジがかった淡いピンク地に白い撫子なでしこの花が織り込まれた装束「顕文紗けんもんしゃ 撫子丸文」。絹独特の光沢を放ち、襟やそでに細く配した緑との調和も見事。王朝文化のみやびやかさをほうふつさせ、外国の賓客を迎えるにふさわしい。

 「『有職ゆうそく』とはそもそも『有しき』から転じたもんです。朝廷や武家の決まりごとに通じた人をいい、決まりそのものを指すようになった。その決まりに従って用いられる織物が有職織物です」

 喜多川さんが次から次へと見本を広げてくれる。豪華な絹の風合い、美しい日本の伝統色。中にはどこかで見たような・・・。

 「これは天皇陛下の黄櫨染こうろぜん、こちらは皇太子さまの黄丹おうに色。色も模様も決まっているんですよ」

 ほかにも皇太子妃雅子さまや秋篠宮妃紀子さまがご成婚の際に着用された装束用の布もある。喜多川さんは、皇室の“御用織物”を手がける職人だ。

 「それぞれに決まりの寸法があり模様の数も決まっている。それに従って作る。だからこそ有職。制限された中でいかに美を表現するかが難しくもあり面白くもある。経験をつまないとできません」

 自身をオーケストラの指揮者にたとえる。一枚の装束を作るにも糸をつくる人、染める人、織る人など多くの職人の分業で成り立っている。色や糸、織り方を決めて指示し、とりまとめるのが喜多川さんの仕事だ。

 「俵屋」は室町時代からの屋号で、能装束に用いる「唐織」を専門とし、江戸時代から有職織物も手がけるようになった。

 有職織物には伝統の織り方がいくつもあり、手法によって「二陪ふたえ織物」や「錦」「綾」「うき織物」などがある。非常に細い糸で織る「うすもの」には、「」や「こく」「紗」。特に羅と穀を織る技術は複雑で、一時途絶えていたが昭和に復元された。京都迎賓館の舞台幕には穀が使われているが、向こうが透けて見える薄くて繊細な風合いは、なんともいえず上品だ。

 「技術は実際に作らないと継承されていかない。ところがこの仕事は経験の場が少ないんです。今回の仕事は若い人たちのためにもいい教材になった」という。

 父・平朗さん(故人)も人間国宝だった。いま、喜多川さんの横で、見習い中という二男・周治さん(31)が熱心に父の言葉に耳を傾けている。

 「物というのは用がなければすたれる。織物は“用の美”でもあります。千年以上を経て洗練されてきた有職織物は、日本の織物の美の原点。人間国宝に認定されたということは、技術を保護する責任を負わされたことと思う」と、喜多川さんは表情を引き締めた。

文・山上直子
by unkotamezou | 2005-04-25 17:55 | 歴史 傳統 文化