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天皇陛下お誕生日に際し

宮内記者会代表質問

問一 今年は日本人二人のノーベル化学賞受賞など晴れやかなニュースの一方国内では高齢者の所在不明問題対外的には尖閣諸島問題などがありました。この一年を振り返りこうした社会問題や近隣諸国との友好・交流についてお考えをお聞かせ下さい。

天皇陛下

 この一年を振り返りますと様々なことがありました。

 質問の中で言及された高齢者の所在不明問題は私自身思いも掛けなかったことで驚きました。私はこれまで人々が無事に高齢に達することを喜ばしいことと思っていましたが元気に過ごしていると考えられていた高齢者の中にその生死が分からない状況にある人々がいることが明らかになったことは非常に残念なことでした。高齢化の進む社会にあって高齢者がしっかり守られていくことは極めて大切なことと思います。医療や介護に携わる人々の不足など様々な困難もあることと察せられますが高齢者のために力を尽くす人々が増え人々の老後が安らかに送れるようになっていくことを切に願っています。

 今年は台風の上陸が少なく死者を伴うような災害はありませんでしたが梅雨期に各地に大雨が降り死者を伴う災害が起こりました。また十月には鹿児島県の奄美大島をこの地域の人々がこれまで経験したことがないような激しい豪雨が襲い死者を伴う大きな災害をもたらしました。亡くなった人々の家族の悲しみ住む家を失った人々の苦しみに深く思いを致しています。交通や通信が途絶した中でかなりの時間を過ごさなければならなかった島民の不安な気持ちはいかばかりであったかと思います。四十年以上も前に私どもは奄美大島を訪れ当時の名瀬市から山道を通ってこの度大きな災害を受けた当時の住用村に行きました。当時を思い起こすときこのような道路が寸断された山地の多い島で救助活動に当たった人々の苦労がしのばれます。

 夏は各地で猛暑が続き多くの高齢者が熱中症で亡くなったことは痛ましいことでした。一人暮らしの高齢者や農作業中の高齢者が熱中症にかかっていることを気付かずにいたために亡くなっている例もあることから熱中症に対する知識を深め皆で健康に気を付けていくことが重要なことと思います。猛暑は農業にも大きな被害をもたらし農業に携わる人々の苦労が察せられます。

 農業関係の大きな出来事としては宮崎県で発生した口蹄疫があります。長年にわたって大切に育ててきた牛や豚をことごとく処分しなければならなかった人々の悲しみワクチン接種や殺処分など危険を伴う作業に携わった獣医師始め多くの人々の労苦に深く思いを致すとともにこの被害を他県に及ぼすことなく食い止めた県民の協力を深く多としています。

 質問にあるように晴れやかなニュースとしては日本人二名のノーベル化学賞の受賞が挙げられます。授賞式においてお二人がメダルをスウェーデン国王陛下から受けられる様子をテレビのニュースで見て誠にうれしい気持ちを覚えました。年が明けてから両夫妻にお話を聞くのを楽しみにしています。

 小惑星探査機はやぶさが小惑星イトカワに着陸し微粒子を持ち帰ったことは誠に喜ばしい今年の快挙でした。一時は行方不明になるなど数々の故障を克服しついに地球に帰還しました。行方不明になっても決して諦めず様々な工夫を重ねついに帰還を果たしたことに深い感動を覚えました。

 今年は国際連合が定めた国際生物多様性年に当たりまた生物多様性条約第十回締約国会議が多くの国々の参加者を名古屋市に迎え開催されました。この会議では様々な論議が交わされましたが最終的に各国の同意を得て会議が滞りなく終了したことは喜ばしいことでした。より多くの人々が生物多様性に関心を持つようになった意義ある会議であったと思います。

 この生物多様性年も終わりに近い頃日本の淡水魚が一種増えました。それは最近新聞などでも報じられたクニマスのことです。クニマスは田沢湖にだけ生息していましたが昭和の十年代田沢湖の水を発電に利用するとき水量を多くするため酸性の強い川の水を田沢湖に流入させたため絶滅してしまいました。ところがこのクニマスの卵がそれ以前に山梨県の西湖に移植されておりそこで繁殖して今日まで生き延びていたことが今年に入り確認されたのです。本当に奇跡の魚と言ってもよいように思います。クニマスについては私には十二歳の時の思い出があります。この年に私は大島正満博士の著書少年科学物語の中に田沢湖のクニマスは酸性の水の流入によりやがて絶滅するであろうということが書かれてあるのを読みました。そしてそのことは私の心に深く残るものでした。それから六十五年クニマス生存の朗報に接したわけです。このクニマス発見に大きく貢献され近くクニマスについての論文を発表される京都大学中坊教授の業績に深く敬意を表するとともにこの度のクニマス発見に東京海洋大学客員准教授さかなクン始め多くの人々が関わり協力したことをうれしく思います。クニマスの今後についてはこれまで西湖漁業協同組合が西湖を管理してクニマスが今日まで守られてきたことを考えると現在の状況のままクニマスを見守り続けていくことが望ましいように思われます。その一方クニマスが今後絶滅することがないよう危険分散を図ることは是非必要です。

 質問にありました近隣諸国との友好交流についてはこれを増進することが極めて重要なことと思っています。尖閣諸島の問題に関しては私の立場としてこれに触れることは差し控えたく思います。

問二 天皇陛下は喜寿のお誕生日を迎えられました。今年陛下は二月にノロウィルスによる急性腸炎六月には風邪で一時体調を崩されました。皇后さまはお誕生日の文書回答の中で加齢によるものらしい現象もよくあり自分でもおかしがったり少し心細がったりしていますと心情をつづられていますが陛下はご自身の加齢や今後お年を重ねられる中でのご公務のあり方についてどのようにお考えでしょうか。

天皇陛下

 一昨年の秋から不整脈などによる体の変調があり幾つかの日程を取り消したり延期したりしました。これを機に公務などの負担軽減を図ることになりました。今のところこれ以上大きな負担軽減をするつもりはありません。今年に入ってからも質問にもあったように時に体調を崩し日程の変更をすることがあり心配を掛けました。自動車で道を通っているときによくお大事にと声を掛けられます。多くの人々が私の健康を気遣ってくれていることに深く感謝しています。

 加齢のことですが耳がやや遠くなり周囲の人には私に話をするときには少し大きな声で話してくれるように頼んでいます。テレビのニュースなどでアナウンサーの話していることは分かるのですが他の人の会話はかなり字幕に頼ります。アナウンサーがこんなに分かりやすく話してくれているのかということを以前は考えたこともありませんでした。

 この夏軽井沢滞在中秋篠宮一家と石尊山に登りました。登りはまあまあでしたが下りは滑りやすく時々後からついてきた秋篠宮や眞子に助けられました。以前登ったときには考えられなかったことです。私も高齢者の一人として私の経験した加齢現象の一端に触れましたが加齢による症状には年齢の若い人にはなかなか想像のしにくいことがたくさんあるのではないかと思います。高齢化が進む今日の社会において高齢者への理解がますます進み高齢者へ十分配慮した建物や町が整備されていくことを切に願っています。

問三 ご家族についてうかがいます。四人のお孫さまとは御所や静養先などでお会いになりご成長ぶりをお感じのことと思います。お孫さまとの交流で感じられたことを具体的なエピソードを交えてお聞かせ下さい。特に皇太子ご夫妻の長女愛子さまは三月以来通常の登校ができず日々通学に付き添われている雅子さまもご公務が十分に行えない状態です。皇太子ご一家の現状についてどのように受けとめられていますか。

天皇陛下

 今年は学習院初等科三年になる愛子に登校が難しくなるという思い掛けない問題が起こり心配しています。皇太子皇太子妃の心配も大きいことと案じています。そのようなことから愛子と会う機会も限られ残念ですが交流としてお話しできるようなことはまだありません。皇后は他の孫たち同様愛子をとてもかわいがっており愛子もこちらに来るときには必ず庭の花を摘んできて皇后に手渡しています。先日来たときには飼っている猫の動画を熱心に皇后に見せていました。運動会の映像で見る愛子は昨年と変わらず元気に楽しんでいるようで安堵しています。

 眞子は国際基督教大学に入学し学生生活を楽しく過ごしているようでうれしく思っています。夏には海外英語研修プログラムに参加しアイルランドでほぼ四十日間国の異なる人々と生活を共にしています。帰国後写真を見せて丁寧に説明してくれました。将来大学生活を振り返り有意義なときだったと思えるような日々を送ってほしいと願っています。

 佳子は学習院女子高等科に進学しました。眞子が高等科在学中毎年出席していた全国高等学校総合文化祭に今年から佳子が秋篠宮同妃に付いて出席することになりました。このような高校生の行事で他の高校の生徒と話し合う機会があることは非常に良いことと思っています。御所で皇太子一家秋篠宮一家が集まり大人同士が話し合っているようなとき佳子はよく愛子や悠仁の面倒を見一緒に遊んでくれます。佳子のこのような気遣いをうれしく思っています。

 悠仁はお茶の水女子大学附属幼稚園に入園し楽しく幼稚園生活を送っているようです。虫が好きで秋には生物学研究所や御所の庭に来てバッタやカマキリを捕まえたりしています。果実にも関心があり生物学研究所の葡萄の実が大きくなっていく様子を見たり柿の実を採ったりしています。秋篠宮の誕生日に皇后がその日庭で採ったよい香りのする花梨の実を持って行って悠仁に見せたところ悠仁はその重い実を大事に抱えて行く先々へ持って行く姿がとてもかわいらしく見えました。

 皇太子一家の現状については皇太子妃が病気ですのでお答えすることは差し控えたく思います。皇太子妃の公務のことがよく言われますが何よりも健康の回復に心掛けるよう願っています。

関連質問

問 天皇陛下は昨年皇后陛下とカナダハワイを訪問され二週間の旅で友好親善を深められました。今年は外国ご訪問はありませんでしたがお年を召されご負担軽減も進められる中今後の外国ご訪問はこれまで以上に日程的な検討も必要になってくるかと思われます。陛下は今後の外国ご訪問についてどのようなお考えをお持ちでしょうかお聞かせください。

天皇陛下

 私の外国訪問についてはよく外国の元首からご招待を頂きますがその時に訪問については政府が検討し決定するということになっていますとお答えしています。ですから外国への訪問についてはこのようなことでそういう場所が決まった場合には力を尽くして意義のある訪問に努めていきたいと思っています。

この一年のご動静

 天皇陛下には本年つつがなく喜寿をお迎えになりました。

 陛下はこの一年も国事行為としてほぼ毎週二回のご執務を行われ内閣よりの上奏書類等八百八十五件にご署名やご押印をされました。宮殿ではそのほか内閣総理大臣の親任式認証官任命式(国務大臣始め百三十六名)新任外国大使の信任状捧呈式(三十二名)勲章親授式(大綬章文化勲章)及び勲章受章者の拝謁などの儀式や行事に臨まれました。また各省事務次官日銀総裁などのご進講も受けられました。また皇后陛下とご一緒に各界優績者の拝謁のほか午餐や茶会など多くの行事に臨まれました。今年はバンクーバーにて冬季オリンピック競技大会及び冬季パラリンピック競技大会が行われたためそれぞれの入賞者をお茶に招かれ健闘をたたえられました。御所では両陛下で恒例の日本学士院会員日本芸術院会員文部科学省研究振興局長ほか青年海外協力隊帰国隊員及び青年シニアの海外ボランティア代表国際交流基金賞受賞者などとお会いになったほか定例の外務省総合外交政策局長によるご進講や各種行事に関するご説明などが合わせて四十七回ありました。このほか勤労奉仕団賢所奉仕団や新嘗祭のための献穀者に対し五十四回のご会釈がありました。

 今年は外国へのご訪問はありませんでしたが来日した大勢の外国の賓客を宮殿や御所で接遇されました。宮殿では五月にカンボジア国国王陛下を国賓として迎えられ宮中晩餐を催されました。そのほか公式実務訪問で来日したメキシコ国大統領夫妻ラオス国国家主席夫妻ルーマニア国大統領夫妻ガーナ国大統領モンゴル国大統領夫妻ボリビア国大統領のため午餐を催されました。また来日した東ティモール国アフガニスタン国エクアドル国ボツワナ国グアテマラ国ジブチ国の各大統領ガボン国大統領夫妻及びブルネイ国国王陛下とご会見になりました。そのほかポーランド国上院議長マレーシア国首相夫妻欧州理事会議長夫妻及び欧州委員会委員長スウェーデン国国会議長ラオス国国民議会議長夫妻中華人民共和国国務院総理スペイン国首相トルコ国大国民議会議長インド国首相夫妻バングラデシュ国首相をご引見になりました。新任の外国大使夫妻を招かれてのお茶日本滞在が三年を超える外国大使夫妻のための午餐離任する大使夫妻のご引見は例年どおり行われました。一方日本から外国に赴任する大使夫妻にも皇后陛下と共にお会いになっておりまた赴任先から帰国した大使夫妻をお茶に招かれて、任地の話をお聞きになりました。御所ではヨルダン国国王陛下と王族方オランダ国皇太子殿下タイ国王女シリントン殿下同国王女チュラポン殿下モナコ国アルベール二世公殿下と同婚約者をご昼餐ご夕餐に招かれました。またアジア太平洋経済協力首脳会議のため来日したカナダ国首相夫妻をご夕餐にお招きになり昨年同国ご訪問時の接遇に謝意を表されました。

 都内及び近郊へのお出ましとしては陛下は国会開会式に臨まれまた両陛下にて全国戦没者追悼式を始め毎年ご臨席になっている日本国際賞国際生物学賞日本芸術院賞日本学士院賞などの授賞式のほか今年も数多く行われた各種周年記念式典などへのご臨席があり節目の年の式典ではお言葉を述べられました。今年も五月のこどもの日九月の敬老の日のほか十二月の障害者週間それぞれにちなんで関連施設をご訪問になり関係者を励まされました。また六月には産業施設のご視察として微細製造技術を有する医療用器具の製造会社に行幸になり産業奨励のご意向を示されました。都内及び近郊へのお出ましは合計四十五回ありました。

 例年ご臨席になっている日本学術会議主催の国際会議としては三月に(平成二十一年度分)京都府で行われた第十四回国際内分泌学会議オープニングセレモニー及びレセプションにまた八月には(平成二十二年度分)茨城県で行われた第二十一回国際純正応用化学連合化学熱力学国際会議開会式及びレセプションにご臨席になりました。

 今年の公的な地方行幸啓は九府県(京都神奈川静岡岐阜愛知茨城千葉奈良埼玉)にわたりました。全国植樹祭(神奈川)全国豊かな海づくり大会(岐阜)国民体育大会(千葉)などの式典にご臨席になり併せて地方の文化福祉産業の事情をご視察になりました。今年は平城遷都千三百年に当たり奈良市での記念祝典にご臨席になるとともに地方事情をご視察になりました。その折に平城京最初の元明天皇及び最後の光仁天皇の御陵にご参拝になったほかご由緒寺院などをご訪問になりました。この一年に公的に地方行幸啓先でご訪問になった市町村数は二十九市五町一村になります。

 今年は須崎御用邸に四月上旬にお出ましになりましたがその途次真鶴町(神奈川県)の魚つき保安林や伊東市(静岡県)の里山「池のさと」をご散策になりました。また七月に那須御用邸にお出ましになり例年どおり農家をご訪問されたほか一昨年環境省に移管された旧那須御用邸用地を那須自然保護官と共にご散策になり自然を楽しまれました。

 宮中祭祀は陛下は恒例の祭典のほか東山天皇三百年式年祭反正天皇千六百年式年祭孝安天皇二千三百年式年祭應神天皇千七百年式年祭などこの一年に執り行われた二十八回の祭典に列せられました。なお昨年より新嘗祭は夕の儀は従来どおり出御になり暁の儀は時間を限ってお出ましになっておりまた毎月一日の旬祭は五月と十月以外はご代拝により行われています。

 日本産魚類検索全種の同定には陛下はその第一版(平成五年)からハゼ類の項目に関わってこられましたがこの度その第三版の改訂が行われることになり皇居内生物学研究所で月に三回ほど編集者の中坊徹次京都大学教授と生物学研究所の職員らを交えてハゼの分類の検討を行っていらっしゃいます。月に一度国立科学博物館分館で開催されます魚類分類研究会に今年は六回お出ましになっています。また二月には国立科学博物館で開催された天皇陛下御即位二十年記念展示ハゼの世界とその多様性を皇后陛下とご一緒にご覧になりました。

 陛下は今年も例年どおり皇居内生物学研究所の田で種籾のお手まきお田植えをなさりお手刈りをなさいました。また粟はお孫様方とご一緒に種をまかれ刈り取られ新嘗祭の折お手刈りになった水稲と共にその一部をお供えになりました。また神嘗祭に際してはお手植えになった根付きの稲を神宮にお供えになりました。

 陛下は平成十五年の前立腺癌のご手術後再発に対するご治療としてお続けいただいているホルモン療法の副作用として骨密度の低下による骨粗鬆症発症の予防を始めご健康維持のためご運動に努めていらっしゃいます。早朝には御所の近くをまた日曜日の朝には東御苑をご散策になりご公務のない週末や休日にはテニスなどのご運動に努めていらっしゃいます。二月初めに急性腸炎様のご症状がみられ検査の結果ノロウイルスによる急性腸炎と診断されました。また六月葉山御用邸にご滞在中発熱など感冒のご症状があり大事を取って御用邸からのお出ましを一部お取りやめになりました。

 天皇陛下は十二月二十三日七十七歳のお誕生日をお迎えになります。

 当日は午前九時に賢所における天長祭の儀のご拝礼をお済ませの後宮殿で皇族方を始めとし五回にわたり祝賀をお受けになりまた皇族方とお祝酒を共にされます。なおこの間三回にわたり長和殿ベランダに立たれ国民の参賀にお応えになります。午後は三権の長閣僚各界の代表者などとの宴会に臨まれた後元側近奉仕者などとの茶会次いで外交団を招かれての茶会に臨まれます。その後御所に戻られ侍従職職員からの祝賀をお受けになり夕方にはこの日最後の行事であるご進講者ご関係者との茶会に臨まれ非公式にお孫様方のご挨拶を受けられた後皇后様お子様方ご夫妻とお祝御膳をおとりになります。

平成二十二年十二月二十日

天皇陛下お誕生日に際し
by unkotamezou | 2010-12-20 22:59 | 皇室