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主権回復記念日がなぜ必要か

≪13回目の国民集会を開く≫

 4月28日といふ日付は今から57年前のことになる昭和27年のこの日に、日本と連合国との間に締結された講和条約が国際法上の効力を獲得し、真の意味での終戦が実現した記念的な日である。

 昭和20年9月2日に調印されたのは戦闘行為の停止を相互に確認した休戦協定に過ぎないのであつて、軍事占領といふ形での戦争状態はそれから昭和27年4月までの6年8カ月の間、なほ執拗に日本帝国の破壊工作を継続してゐた。

 この重大な歴史的事実を忘れてはいけない。日米戦争についての直接の記憶を持たない世代が国民の大多数を占める様になつてゐる今日こそ、米軍の占領がもたらした禍害についての認識は、これまでの半世紀に於けるより更に重大な、凡そ外交と安全保障の問題を考へる人にとつて不可欠の要請になつてゐる-と、さう考へてこの日を「主権回復記念日」といふ祝日とし、国民の誰しもが独立国家の主権の尊厳についての思ひをめぐらす機縁たらしめようとの運動を始めたのが平成9年のこの日のことであつた。

 その運動も既に12年の歴史を閲し、本年は第13回目の記念国民集会を催して記念日祝日化の訴へを繰り返すことになるのだが、集会自体の連年の盛況にも拘はらず、呼びかけの実際の効果は年を経てもなかなか眼に見える様な形では現れて来ないのが現状である。

≪いまだ占領行政の後遺症≫

 祝日化の目標は、現実には祝日法の一部改正といふ立法問題なのであるから、成否はこれに賛同してくれる国会議員の中の同気同憂の士がどれほど力を伸張し得るかにかかつてをり、運動の発起人達がいくら焦つてもそれだけの効果はない、といふ面がある。

 然し、運動の本来の目標たる国家主権意識の再生・昂揚といふ懸案に向けての私共の言論活動が如何に非力なものでしかなかつたかといふ惨めな結果に直面して、苦い反省と落胆に陥ることが屡々である。

 最近の占領行政資料の入念な探索と発掘により、あの7年に近い米軍占領期間中に我が国民が蒙つた言論・報道・出版の自由に対する圧迫と毀損が、従来の認識よりはるかに深く広く、且つ陰険な手口のものであつたといふ実態が徐々に明らかになつてきた。

 戦時体制からの解放を謳歌した戦後民主主義の旗標の下で、我が言論界一般が、実は屈辱的な表現の自由の逼塞と、その後遺症たる言論の自己規制といふ病気から恢復できてゐない、といふ実態も次第に暴露されつつある。

 昨年秋の前航空幕僚長の筆禍・失脚事件は、今や痼疾となつたこの業病の急激な発症の一例といふより他のないものだつた。つまり、独立国家としての主権の尊厳といふ意識は、旧敵国や近隣諸国に向けての敗戦国民としての恐縮・謝罪の感情に呪縛されたままになつてゐる、しかもその緊縛の手綱を握つて放さないのは今や占領の主役を演じた旧敵国ではなくて、直接の戦争相手ではなかつた中国共産党政府の脅迫に常に恐々たる我が日本国政府の閣僚達であるといふ倒錯した構図が、国際社会の視線にさらされてしまつた。

 精神の自由を麻痺させる、この様な持続効果の強い病原菌を、我々日本人が意識の深層に接種されてしまつたのは今から50年以上も昔の占領時代の事である。その頃未だ此の世に生まれてゐなかつた世代にもこの種の麻痺性疾患が明らかに看て取れることから判断するに、この病菌は遺伝性すらも具へてゐる執拗な毒性を帯びたものであるらしい。

≪日米同盟の逆説的な意味≫

 日本民族にこの病毒を伝染させた当時の占領政策強行者の世代は夙に隠退して、今はそれよりはるか後の世代の為政者が、先人達の用意しておいてくれた「拒否できない日本」(関岡英之氏の警世の指摘)といふ好餌の旨味を享受する、といふ構図になつてゐる。

 我々の側からすれば、いつたい日本人はいつまで奪はれ続け、毟られ続けるのか、国政、殊に外交の衝に当たる責任者はまだ目が覚めないのか、汝等に国家主権の尊厳についての意識はほんたうに欠けたままなのか、と声を大にして叫びたいところである。

 本年の主権回復記念日国民集会は、特に安全保障・防衛の問題について、切実なる現場の経験を持つてをられる自衛隊出身の方々を含めての達識者に登場して頂く。

 当然ながら、安全保障条約に基盤を据ゑての日米同盟の堅持は当面の必須の要請であることが確認されるであらう。重要なのは、その際我々が同盟相手の国の正体を見抜き、その過去の罪業と現在未来に亙つての我に対する侮弄の邪念とを判然と知悉した上で彼と堅く手を結ぶといふこの逆説的な選択である。

 我が国の人士は、知識人も大衆も、とかく同盟と友交とを混同して理解する。溯れば日独同盟締結に際しても我々はその失敗を犯した。国家間同盟の厳しい意味についての甘い錯覚を防ぐのも亦、国家主権についての確たる認識である。(こぼり けいいちろう=東京大学名誉教授)

21/04/28 08:50

【正論】小堀桂一郎 主権回復記念日がなぜ必要か
by unkotamezou | 2009-04-28 08:50 | 政治 行政 立法