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ある支那人戦略家の国防観

 人民日報社発行の国際情報専門紙の『環球時報』は8月26日付で、中国屈指の軍事戦略研究家である彭光謙氏の小論文を掲載した。氏はもともと中国軍事科学院戦略研究部所属の研究者で、少将の階級をもつ軍人であった。定年退役後は民間の研究機関に勤めながら、軍事評論家として活躍している。このような背景からも、彭氏の論はある程度、中国政府もしくは主流派エリートたちの共通認識を代弁している、と見ることができる。

 「国防の強化に一刻の猶予もない」と訴えた彼の論文には、いくつかの注目すべき論点がある。

 その1、冷戦後の現在、中国にとっての全面戦争の脅威は明らかに減少し、外部からの武装侵略によって国家の存亡が脅かされるような危機はもはや現実のものではなくなっている。その代わりに、一部の国際的敵対勢力は中国の発展と強大化を快く思わず、できるだけ中国の発展を阻止しようとしている。

 その2、そのために、敵対勢力は「台湾独立」「チベット独立」「ウイグル独立」を暗に支持して扇動し、中国の発展戦略を妨害する。彼らはまた、経済的・技術的手段を用いて、中国の経済秩序・金融秩序を攪乱することによって中国の発展を遅らせるのである。

 その3、したがって、中国は今後、国家戦略の重点を自国の「発展権」の維持に置き、そのために戦ってゆかなければならないが、必要なのは、抑止力としての国防の強化であり、実力をもって自立自存をはかり、実力をバックにして発展権を守ることである。

 以上は、中国の軍事戦略論の第一人者である彭氏の論文の骨子だが、そこから読み取れるのは、次の大変重要な点である。

 要するに彭氏ら国家級の戦略家たちは、中国に侵略戦争をしかけてくるような国はどこにも存在しない事実を認めていながらも、依然、「敵対勢力は中国の発展を阻止しようとする」という妄想に近い世界観の上に立って中国の国防戦略を考えている。あるいは彼らは、中国の軍事力のさらなる強化を正当化するために、このような独善的な世界観を意図的に吹聴しているのかもしれない。

 いずれにしても、大量の核兵器と世界屈指の軍事力を既に持っているはずのこの中国で、主流派の戦略家たちは依然、何かの妄想や口実にこじつけて「一刻の猶予もない国防力の強化」を訴えているのである。彼らは一体、何をたくらんでいるのであろう。

 このような異様な国の存在は、近隣国の日本にとって憂慮すべき大問題であろう。一体どこの国が中国にとっての「敵対勢力」となるのかは、結局彼らの主観的恣意によるものだから、日本という国はいつか、中国の強化された軍事力の餌食にならない保証はどこにもない。彭氏の言葉を借りていえば、われわれ日本国民も、自国の生存権と「発展権」を真剣に考えなければならない時がきている。

 しかし残念ながら、日本国民の大半にはこのような問題意識がまるきりない。この前の総選挙で、国防問題を棚上げにして選挙戦を戦った民主党が大勝したことはその証明であろう。これほどのんきな日本国民に、中国人戦略家の彭氏が例の論文のなかで吐いた至言の一つを贈りたい。

 「国家の発展権の維持と戦争の予防は机上の空論でもなければ片思いの願望でもない。それは強大な実力をバックにして初めて達成できる目標である」と。

 残念ではあるが、問題の本質をきちんと見抜いているのは、むしろわれわれの「敵方」の方である。

【経歴】石平

 せき・へい 昭和37年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。63年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『私はなぜ「中国」を捨てたのか』など著書多数。

21/09/10 13:36

ある中国人戦略家の国防観
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by unkotamezou | 2009-09-10 13:36 | 國防 軍事