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南部理論「対称性の自発的破れ」 物理学の歴史変えた

■物質が重さを持つ仕組み明らかに

 物質にはなぜ、重さがあるのか。この根源的な謎の解明に貢献し、今年のノーベル物理学賞に輝いた南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授(87)。半世紀近く前に「対称性の自発的破れ」という理論を提唱し、物質を構成する素粒子が宇宙の進化過程で質量を獲得した仕組みを明らかにした。物理学の歴史を変えた南部理論のあらましを紹介する。(長内洋介)

 南部理論のキーワードは「対称性」だ。自然界は対称性に満ちている。人間の顔や体は左右対称だし、鏡に映った物は実物と対称に見える。皿の上に卵を立てて置いた場合、皿を回して方向を変えても、卵は同じ形に見え、対称性が保たれている。

 しかし、立った状態では不安定なので、そのうち倒れて対称性を失う。このように物体の法則や性質が自然に変わることを「対称性の自発的破れ」という。

 南部さんは、同じような現象が極微の素粒子の世界でも起き、それが物質に重さ(質量)があることの理由だと気付いた。昭和36年に論文を発表したが、当初は関心を持たれなかった。多くの学者は「物質に重さがあるのは当たり前」と思い込んでいたからだ。

 しかし昭和40年代に入ると、物質は宇宙誕生直後、質量がゼロだったことが理論的に判明し、「質量はなぜ生まれたのか」は、重大問題に浮上。そこで世界は南部理論の意義にようやく気付き、並はずれた先見性と洞察力に喝采を送った。

■回転する粒子

 素粒子とは、物質を構成する最小単位の「粒」のこと。物質を「おにぎり」に例えると、素粒子は1つ1つの米粒だ。この小さな粒子は、地球の自転のように回転する性質がある。回転方向は粒子の種類によって左右が決まっている。

 右回転している粒子を、野球の「ジャイロボール」のように投げた場合を考えてみよう。質量を持つ粒子は、質量ゼロの光子よりも重いのでスピードが遅い。このため粒子を投げた後、光の速さで先回りすると、粒子は逆向きの左回転に見えるはずだ。

 これは本来、右回転だった粒子が左回転の粒子に変身し、左右を区別できない状態になり、対称性が失われたことを意味する。言い換えれば「粒子は対称性が失われると質量を持つ」ということだ。

■真空に潜む謎

 では、どうすれば粒子の対称性は崩れるのか。南部さんが考えたのは、「粒子と反粒子のペアが真空中に潜んでいる」という型破りなアイデアだった。

 反粒子とは、普通の粒子と電気的な性質が反対の粒子のこと。粒子と反粒子が衝突すると、どちらも消えてしまう不思議な現象が起きる。これを「対消滅」という。

 南部さんは空っぽのように見える真空中に、「左回転の粒子」と「右回転の反粒子」がペアで隠れていると考えた。ここに右回転の粒子がぶつかると、対消滅によって左回転の粒子だけが生き残る。結果的に粒子は右回転から左回転に変身し、対称性が失われる。つまり、この粒子は質量を持つことになる。

■標準理論の土台

 宇宙がビッグバンの高温状態で生まれた直後は、素粒子のクォークは質量を持たず、真空中を光速で飛び回っていた。その後、宇宙が冷えると真空の性質が変化し、南部理論に基づくクォークと反クォークのペアや、ヒッグス粒子という新顔の素粒子が真空を埋め尽くした。

 クォークは、この奇妙なペアやヒッグス粒子にぶつかって動きにくくなり、重さ(質量)を持つようになったのだ。質量への影響はヒッグス粒子が全体の2%で、残りの98%は奇妙なペアが原因。体重100キロの人なら、98キロは南部理論で説明できるわけだ。

 南部さんは畑違いの超電導理論から、奇妙なペアの着想を得た。それを素粒子論に大胆に導入し、真空が単なる空っぽではないことを見抜いた。南部理論は素粒子物理のバイブルとして標準理論の土台となり、未発見のヒッグス粒子探しや宇宙論など、現在も多くの先端研究を支えている。

 高エネルギー加速器研究機構の森田洋平准教授は「南部さんは物理のルールブックを作った人。今の物理学者は、その手のひらの上で仕事をしているようなものだ」と偉業をたたえた。

20/11/04 11:58

南部理論「対称性の自発的破れ」 物理学の歴史変えた
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by unkotamezou | 2008-11-04 11:58 | 自然 科學 技術